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「彼女とぼくとカノン」は、Nifty serveの現代詩のフォーラム１番会議室と新・詩のフォーラム５番会議室に、1998年7月〜12月に掲載した連詩を、一部加筆・修正したものです。 |
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●●● 彼女 ●●● 雨の日には決まってふらりと出かけたまま その森は途方もなく大きく 黒猫のカノンが彼女の膝から飛び降りて、窓をカリカリとかく ばかねえ、と ほら、と突き出した彼女の両の手のなかに くすくすとカノンが笑う |
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●●● スプーン ●●● 彼女は お茶のカップを受け皿にもどしてから 「たとえば、これが」 彼女は 受け皿のスプーンを手に取って 「夢を作り出す装置だとする」 小さいでしょう と彼女は笑う 「こうやって」 もう一度 くるりとスプーンを振った先 魚くんの夢を見ているのだろうか 「カノンの夢を作ったつもりになってみる」 それは カノンの夢じゃないよと云いかけて 彼女の 深い色の視線が スプーンが見ている 夢？ 彼女は 手をかかげて指を開き 「はい、おしまい」 彼女は なにもなかったように ぼくは スプーンを拾って 「ヘンな人。ただのスプーンなのに」 彼女は キッチンへ立って 「あなたは自分の道具を使うのよ」 彼女は ぼくの手からスプーンを取り上げて |
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●●● はいいろ ●●● まだ 陽も昇らないというのに 彼女がこの家に越してきたときもそうだった 床に散らばったぼくの心を分別する彼女の手つきは 「同じ過去は、同じ色をしているの」 彼女はぼくを見向きもせずに云う 「大切なのは」 時折 識別不可能な欠片をカノンにぽいと投げながら 「混ぜないこと。それから、灰色」 カノンが かりかりと心の欠片をかじる音 「あとは、自分でできるわね」 彼女は
部屋中のおおかたの欠片を分別しおえると 「よく出来てるじゃない、それ」 彼女はたのしそうに笑う 「どういたしまして」 と手を振って 彼女は扉を閉めた |
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●●● わたがし ●●● ねえ 割りばしを持ってきてよと 「こっちこっち」 窓から身をのりだして 「おかしな人ね」 ひょいと 軒先から彼女の顔があらわれる 「カノンがしゃべれるわけないのにね」 彼女は どうやって屋根にのぼったのだろう 「割りばしは？」 ぼくは 割りばしを２本さし出す たとえば 彼女は今 「取ってくれる？」 いつのまにか 「おひさまのサニーサイドよ。もちろん」 彼女は屈託なく笑って お茶のカップを渡したぼくの目の前に 「世の中のしくみって、たくさんあるのね」 彼女は いつもの静かな表情にもどって いつのまにか わたがしが きらきらと輝いている |