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●●● 潮騒 ●●● ぽっぽぉと 鳩時計が時を告げた ぼくは ぜんまいの錘を引き上げて 潮騒が聞こえる 「なにを知りたいの？」 テーブルにひじをついて 時間 と云いかけて 潮騒が聞こえる 「判らないことを 言葉にしては駄目」 彼女は指ではじいて 「あたしが雨の日に出かけるのはね」 彼女は スプーンを手に取って 「あたしの中の海がざわめくから」 スプーンの中の液体は 否 果敢なげに見えるのは 時計ごとに 時を刻む速さが違うように 「あなたはなにを知りたいの？」 彼女が傾けたスプーンから ぼくが知りたいのは にゃあと声がして 「お茶を入れ直しましょう」 立ち上った彼女に 彼女の鼻歌のあいまに ぽっぽぉと 鳩時計が時を告げた |
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●●● 月相 ●●● 太陽の光に支配された空に ぼくは その写真集を 明け方に持ち帰った彼女は ページをめくるたび 「急がなくても大丈夫」 写真集を差し出しながらそう云った ようやく辿り着いた写真のなか 『今日 空にある月が 「たとえば」 声がして 「あるパズルの解を得たとして カノンの声は 「喋るカノンというパズルの解は カノンは それきり口を閉ざす この写真集 と云いかけて 「おはよう 繭子」 ぼくの中で そう 「お茶にしましょう」 彼女とすごす ならば 「駄目よ カノン カノンは にゃあと鳴いて 「いい写真集だね」 たぶん それが 「一番に 彼女は 静かに微笑んで つぃと |
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●●● 窓 ●●● 扉を叩く音がする 誰かが 叫んでいる きっと ぼくは テーブルで 黒猫のカノンが 彼女ならば 今日のカノンは ばたんと 玄関で音がして ぼくは そう きっと 扉や鍵の在処も 「ねえ 彼女が 彼女は ぼくの手を引いて 「自分で確かめるのよ」 彼女は ぼくを背後から抱きすくめ ぼくの胸の奥 窓は 両開きで カーテンを開けた彼女の手が ぼくの胸に四角く開いた 彼女は 眠ったのか動かない 砂時計の塔のてっぺんにうずくまって あれは ぼくだ シルエットの女性は 砂時計の塔のてっぺんから 鏡が砕ける音がして 彼女を 仔猫を 「あなたのせいじゃない いつの間に意識を取り戻したのか 「勘違いしないで 体力を使い果たしたのか 「人の願いを叶えるのって 深いため息のあと |
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●●● 時の舟 ●●● 玄関のドアが激しく開いて 「舟から投げ出されたの」 そういえば 「あたしには これが精一杯」 彼女が ぼくを抱きすくめる 「もっと早くに もう舟は一隻も残っていない そうだ 「ねえ そう云った彼女を振り返った先 簡単なこと ぼくはゆっくりとお茶を飲み干して この部屋に来たときも 「さよなら」 テーブルで 彼女が手を振っている |