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７ 四角い瞳 真由さんが 椅子に座ってポーズを取る さらさら 「高橋さん、 あら気にしているの 「はい、できあがり」 スケッチブックを見せてくれる 「これは蛇足」 真由さんは紙を裏返して 「紙が四角だからって、 さあて スケッチブックを胸に抱きしめて 立ち上がれない 「公園に出かけましょう」 勝ち誇ったように笑って 折り畳み椅子運んでね 叩かれた背中が痛い 風が部屋を通り抜けて
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８ きっかけ ヒロカさんから 断る理由のないまま いつ 昨日 高橋さんに話したら 気持ちをばっさり断ち切って お昼ごはんの時間だから そのくせ 持ち込みで 有美ちゃんはなぜ とうとう底が突いたね 公衆電話を見つけて 「あら残念ねえ。 受話器が生あたたかくて 商店街を西から東へ もしもし 公衆電話が もしもし 受話器を手に取る どれだけ叫んでも
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９ 一方通行 どこもなんともないですよ チョコレートパフェが食べたい 「ねえ、おとうさん」 「おかあさんが亡くなった時、 自分の言葉を反芻して 答えるつもりだ 「ママンが死んだとき、 先回りする カノンの母猫の死 記憶はいつだって一方通行だ 笑いが込み上げる みんな あたしの中には 積谷繭子の思想がいっぱい詰まっている バスの排ガスで気持ち悪くなって ほんの小さな 全部 そう 空っぽになったから 路肩にうずくまり アスファルトの隙間に
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１０ 判らない 一人で電車に乗るのは久しぶりだ たった二駅の 電車のなかに焦点をあわせていると 大きく息を吸い込む こんこん なにかに 駅に着いて 「すいません、 駅員が世話しているのだろうか 花はなぜ咲いて 高橋さんは軽く手を上げて 「わざわざ、 あたしがまた 「取材が入ったんだ。 ぶっきらぼうに言って ほら急げよ 「取材って？」 絵本の雑誌で ダメ 「また吐くのか」 後ずさろうとして 次の電車がやってきて 高橋さんは 先に歩き出す 怖い が 判らない うずくまってしまうと そうだろうか そうだっただろうか
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１１ 花 ＩＣＵの かすみ草が散りばめられた花の束 「お供えの花って、 手を握ったり開いたりする癖 そうかな かけた水が あの時あたしは 「ネット、 え と振り向いた先 塊が込み上げて 来なければよかった 「そんなに怖い？ トレーニングくんは それじゃあ あたしの責任を あたしが生きている理由 背を叩かれた瞬間 「しっかりしろよなんて言わないけど。 呼ばれた気がして はい 積谷繭子じゃなく 振り仰ぐと 今日の月は
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１２ 死臭 自分で朝ごはんを作るのは 黒猫のカノンが 「いただきまーす」 席について手を合わせ 冷気を吸い込んだ途端 未来人が にゃあ と 危ない 危ない 席にもどり 悲鳴 真由さんの描いた 積谷繭子の枠からは そうか だからみんな あたしのこの気持ち悪さは お茶碗のごはんを 所詮 そんなものなのだ 「ねえカノン、 悔しくて涙が止まらなくなる カノンがあたしの足に身体をこすりつける けれど
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１３ 生きていたくないなら 過呼吸症という病気を知ったのは すごい有様よ 「たとえば？」 おだやかな空気に 「あのね、 部屋じゅう ひどい臭いよ この入院って 今のあたしの収入では カノンは食欲旺盛で お腹がすいたと言ったら 「生きたくないなら、 有美ちゃんの目が 唇を震わせている 情けなくて もう少し
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