●●● 素直 ●●● 新しい窓を作るのだと云って かっこう と お茶を入れるわと 変だ 彼は ハンマーを手に穴にもぐり込み 「おいで」 鳩が 時計の窓から飛び立ち かっこう と声がする 「素直じゃないね」 やれやれ と 「ぼくには、 リビングほどの空間の真ん中に 「あたしが邪なのは」 <<よこしま あなたが素直じゃないからよ 「作ってみたんだけど、 勧められた椅子に座って かっこう と 「あの時計に住んでいるのは、 もといた部屋を振り返ると 本当に 素直じゃない もう一杯お茶を飲もうかと ぽっぽう と |
●●● 人 ●●● 目が覚めてからずっと なにか変だ テーブルの席で熱いお茶を飲み 黒猫? 立ち上がる 早く来てと 誰かが叫んでいる あたしは 陶器の男の手が 「名前がなければ、 彼から流れ落ちた陶器が その実 二人とも 「なにがおかしいの!」 そう叫んだのが自分だと気づく 「図星だったから」 ああ おかしいと 「人間って言葉の意味、 彼は あたしの向かいの席で 「二人じゃ、 三人だから名前が必要なんだと 「ぼくの名前は、 「あたしは」 カノンが居眠りをはじめる あたしは 「マユコ」 よろしく と笑って 窓のカーテンが |
●●● 在処 ●●● さっきから 「カノン」 そう呼ぶ前に 笑いがこみ上げる 「ねえ、 彼が ついと顔を上げる 「あったよ」 開けた扉の暗がりから 「あたし達はどうなるの?」 彼が 困った様子で ヘンなツキくん と 手を離しさえしなければ じゃあ 手を離したら 「やめるんだ」 あたしは 彼を無視して 「時限爆弾だとでも思った?」 砂が尽きたら 「でもまあ、 そんな科白にあたしが笑った意味さえ 流しの下 扉を開けてみても |
●●● 終焉 ●●● 朝 目が覚めると ぽっぽぉと 「お茶、 彼は 顔すら上げない 「恐かった?」 いつの間にか 「恐いに決まっているでしょう」 ごめん 気づくのが遅くなって 「同時に入れよう」 一 二 三 「おかえり」 彼は 部屋を見渡して 「行こう」 彼が あたしの手を取る どこにいるの 「ここにいるわ。 彼は 予期していたのだろうか |
●●● 夜明け ●●● 冷たい夜 あたしの上着にくるまって 彼は 立ち去り 彼だけが あたしもまた 笑いがこみ上げる 「ねえ、 あれほど不思議だった あたしを機械に仕立てあげて 新しいお茶を入れる そう 「カノン」 名前を呼ぶと だから 彼の記憶は たどたどしく 「どうぞ」 彼を招き入れる また 一日がはじまるのだ |
●●● 始まり 終わり ●●● 玄関で靴を脱ぎそろえて 「おかえりなさい」 カップのお茶が 彼は 彼だ 「今日はね」 差し出した手 「とても特別な日なの」 鳩は 跡形もなくなる あたしだって 「まず、 彼と向き合って座り 「なにが終わったんだろうって、 彼が使った手品 「なにかが始まるんだね」 彼をいざない 陽が 眩しい 「始まるんじゃないわ。 窓枠に足を掛けて 前へ |