詩の部屋

〜　連詩　〜

気分限定スパイス

2004.6.7更新


title : return to myself

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目次　

横着

迷子

円

気持ち

罪悪感

仕度

時間

異空間

思い出

休憩

球体

顔

意地

駆け引き

お茶会

あと一歩

　

　

横着

昨日の朝遅く

雨の音で目が覚めた

布団から這い出て

あたりに散らばっている

腕や頭を拾い集めて

もと通りつなぎ合わせて

お茶を飲んでいると

ようやく生きた心地がした

縁側にすわって

雨を眺めていると

時々　良さそうな粒が落ちてくるので

掠め取っては

朝ごはんの代わりにした

傘をさしてスーパーへ出かけるのが面倒で

ボールで雨を受けておこうかと思いかけて

でもまあ

とりあえずお昼寝してから考えよう

うとうとするうち

気がつくと

雨はすっかりやんで

太陽が顔を覗かせていた

お腹がすいたので

縁側に寝そべって陽の光を食べていると

行儀悪いなあ

いつのまに来たのか

あなたがダイニングの椅子に座っていて

呆れた様子で

お茶入れたよ　と言った

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迷子

昨日の夕方

電話機がとうとう泣き出した

受話器やボタンをきれいにして

日当たりのよい場所に移しても

一向に泣き止む気配はなかった

そういえばここ何ヶ月も

閉じこもったままで

誰からも電話がかからなかったと

さすがに反省して

外へ駆け出すと

角の公衆電話は行方不明になっていた

代わりを探して

街じゅう駆けずり回って

やっとのことで

空いている電話機をひとつ見つけた

家に電話をかけると

電話機は怒りを通り越して

言葉を失っていたので

根気よく話しかけるうち

ようやく「うん」とか「いい」とか

返事くらいはしてくれるようになった

やれやれ

こんな日はとびきり辛い物を食べるに限る

久しぶりに買い出しをしようと決意したのに

まわりを見まわしても

ここがどこなのかさっぱり見当もつかなかった

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円

昨日の午後

とびきり強い風が吹き出したので

広場に円を描いて

タイミングを見計らって風を閉じ込めた

風は身体をぎしぎし揺らしながら

円の縁にそって

反時計回りにぐるぐる回りつづけた

落ち葉をかき集めてきて

円のなかに投げ込んでみると

あっという間に空へ吹き飛ばされた

風はどんどん成長して

円がビリビリ震えだしたので

覚悟を決めて

中に飛び込むと

揉みくちゃにされながら

わたしの身体は宙に浮かんだ

遠くの百貨店や

大晦日に毎年登る山がよく見えた

クロが心配そうに吠えていた

そのうち風はさすがに疲れてきたのか

だんだん勢いがなくなったので

わたしはゆっくりと広場に降りていって

円の真ん中に着地した

ごめんねこき使って

円を解くと

風はずいぶん弱々しくなっていて

それでも砂を巻き上げながら去っていった

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気持ち

昨日の夜更け

目が冴えて眠れなかったので

コーヒーを飲みながら

手紙に書く言葉をあれこれと考えていると

ペンが勝手に動いて

ありもしないわたしの気持ちをつづりはじめた

ちょっと勝手なことしないでよ

ペンを投げ出して

部屋を行ったり来たりしたものの

考えれば考えるほど

それは今のわたしを正確に表していた

確かにそうだけど

こんなの出したら二度と逢えなくなるわ

新しい便箋を出して

それっぽい言葉を並べて取り繕いながら

嘘の気持ちじゃない　と

何度も自分に言い聞かせた

でも　こんなことだから

いつもうまくいかないのかもしれない

つい挫けそうになって

そのたびペンが

悲しそうにわたしを振り返った

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罪悪感

昨日のお昼過ぎ

前触れもなく牛乳配達がやってきて

まいどぉ

ビンを二本置いていった

ちょっとこんなの頼んでないですけど

叫んだ声を無視して

スクーターは颯爽と走り去った

どうしよう

取りあえず冷やしておく方がよいかしら

キッチンをうろうろしているうち

喉が渇いてきて

よくよく見ると

白さやビンの表面に浮かんだ水滴が

とても魅力的で

気がつくと

フタを開けて一本を飲み干したあとで

しまったと思ってももう遅く

またよりによって郵便屋だの新聞の集金だの

ぞくぞくと訪問者が押し寄せるので

一日じゅう

スクーターの音がするたび

牛乳を取り返しにきたのかとびくびくした

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仕度

昨日の午前七時二分

玄関のチャイムが鳴って

あわてて身を取り繕って出てみると

爽やかな表情のあなたが

ほら　早くしないと間に合わないよと叫んで

有無を言わさずわたしの手を引っ張って

街をずんずんと進んだ

寝ぼけた頭で

約束なんかしてたっけと考えてみても

なにも思い出せなくて

ちょっと待ってよまだ支度もできてないんだから

何度も叫ぶうち

あなたは突然スイッチが切れたように立ち止まって

感情のない目でわたしを見た

なんだか悪いことをしているようで

わけを聞くと

突然　ごめん人違いだったと

それきり一度も振り返らずに去ってしまった

よくよく考えてみると

彼に見覚えも面識もなく

よくもまあお互い今まで気づかなかったものだと

呆れて　改めて自分の格好を見ると

パジャマにサンダル姿で

周りの視線を一手に集めてしまって

こそこそ　路地を選んで帰った

今ごろ

すっぽかした約束の彼女に平謝りしてるだろうか

気がつくと彼のことを考えていて

少しだけ羨ましくて

家に着いたそうそう

いつまたチャイムが鳴ってもいいように

身支度を整えた

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