いち。

砂糖とクレープ入りの古いコーヒーに、マーガリ
ンをぬった焼きたてのトーストをつけて食べるの
が、好き。

に。

電車に乗っていて、好きな景色の場所が近づいてくると、じっと外を眺めて通り過ぎるのを待つのが、好き。

さん。

カバンの中にいろんなものをつめ込んだままにしておいて、時々思い出して中身を整理してみると、２年くらい前のものが出てきたりするのが、好き。

よん。

眼鏡のレンズとフレームの間のすきまの埃を時々、コンパスの針で掃除するのが、好き。

ご。

いつも左足から履くズボンや靴をわざと右から履いてみて、もたもたして転びそうになるのが、好き。

ろく。

車で近距離の目的地に出かけるとき、同じくらいの距離のルートを２つ考えて、どちらから行った方が早いんだろうと考え込むのが、好き。

なな。

赤信号に止まったとき、適当な数字を思いうかべてカウントダウンして、ゼロちかくで信号が変わったりしたら、得した気分になるのが、好き。

はち。

お風呂につかっていて、体操選手みたいに腕だけで身体を支えて、足を水面ﾊから出したりトカチェフの真似をするのが、好き。

きゅう。

電気やテレビやCDをつけたまま、知らない間に寝てしまって、夜明けに目が覚めるのが、好き。

じゅう。

CD屋さんで、「お」とか「た」とかの不特定の歌手の欄から、聞いたことのない歌手のCDを選んで買うのが、好き。

じゅういち。

喫茶店で、ミックスジュースを飲みながら好きな作家の本を読んでいて、ちょうど最後まで読み終えてしまうのが、好き。

じゅうに。

青空を雲の塊がものすごい速さで流れているのを眺めていて、近くのアパートや木々が動いているような錯覚がするのが、好き。

じゅうさん。

雷で空が光ってから、「ゴロゴロ」までの時間を計って、雷までの距離を計算するのが、好き。

じゅうよん。

CDをランダムに再生していて、前の曲がおわる直前に、突然、あ、次はこの曲にちがいないとひらめいて、そんな時たいてい当たっていたりするのが、好き。

じゅうご。

友達から、意外な苦手の食べ物のことや、苦手になった経緯を聞くのが、好き。

じゅうろく。

ボーリング場で、小さな子供が投げて、ときどき偶然にピンが倒れたりすると、キャアキャアはしゃいでいるのを見るのが、好き。

じゅうなな。

蟻やてんとう虫を手ひらにのせて、歩き回らせるのが、好き。

じゅうはち。

おなじ美術館に、なんども繰り返し通うのが、好き。

じゅうきゅう。

ホッチキスを空でカチャカチャ連続押しして、芯をポロポロ巻きちらすのが、好き。

にじゅう。

自分が使っている言葉で、今まで共通語あるいは広域な方言だと思っていたものが、ある日突然、超ローカル語だと気づいて、まわりのみんなに、「なーなー、使うやんなあ？」と訊いて回るのが、好き。

にじゅういち。

新しいノートを使い始めるとき、第一ページ目を白紙のままにしておくのが、好き。

にじゅうに。

レシートを正方形に切って、ツルを折るのが、好き。

にじゅうさん。

カナヅチで釘を打つとき、「コンコン」と声に出して云うのが、好き。

にじゅうよん。

電車や街の中で、小さな子供を連れた家族がそばにいる時、親に気づかれないように子供を笑わせたり、気を引いたりするのが、好き。

にじゅうご。

秋になって、寒くなっても、今のうちから厚手の服を着たら、本格的な冬になったら寒さに耐えられなくなるからと、自分に云い聞かせて、薄手の服で頑張るのが、好き。

にじゅうろく。

車を運転していて、上り坂の途中の赤信号で止まるときに、ブレーキをつかわずにエンジンブレーキだけで減速させて、ちょうど信号のところで止まるように速度を調整するのが、好き。

にじゅうなな。

ツクツクボーシが「ツクツクフィーウーイー」と鳴きやもうとしているところに、石なんかを投げて、かっこよく鳴きやめないように邪魔をするのが、好き。

にじゅうはち。

観葉植物に、名前をつけるのが、好き。

にじゅうきゅう。

ゆでタマゴの殻をむいていて、全体の半分くらいがポコッと一度にとれるのが、好き。

さんじゅう。

本を読むとき、後書きから読むのが、好き。

さんじゅういち。

季節はずれな時に、好きな食べ物を、変わり者あつかいされながら食べるのが、好き。

さんじゅうに。

四角いタイルが敷きつめられた歩道を歩くときにタイルの幅に歩幅をあわせてぎこちなく歩くのが、好き。

さんじゅうさん。

決まった本屋で、時々、書棚を決まったルートで巡回して、好きな作家の新刊や面白そうな本がないかをチェックしながら歩くのが、好き。

さんじゅうよん。

テレビをチャンネルを次々かえながら見るのが、好き。

さんじゅうご。

街中などを歩いていて、知り合いを見かけて、声をかけようと思うけれど、身体が動かなくて、そうしてるうちにその人と距離があいてしまって、まあ、いいや、と思いながら見送るのが、好き。

さんじゅうろく。

ふだん散らかし放題の部屋を、突然思い至って徹底的に掃除するのが、好き。

さんじゅうなな。

冬に、外から突然あたたかい部屋に入って曇った眼鏡をそのままかけていると、レンズの真ん中あたりから少しづつ見えるようになっていくのが、好き。

さんじゅうはち。

お月様を見ながら、上弦かな、下弦かな、と考えるのが、好き。

さんじゅうきゅう。

アパートなんかの地下でコマを回して遊んでいて鉄の輪っかがコンクリートの壁にあたって、パチッと火花をたてたりするのが、好き。

よんじゅう。

水彩画を描いていて、濃い色がうまく塗れたときの気分が、好き。

よんじゅういち。

電気式のミシンの、動き出す瞬間にたてるウゥーンっていう低い音が、好き。

よんじゅうに。

石油ストーブが燃えている金網の部分に、マッチを近づけて、火をつけるのが、好き。

よんじゅうさん。

バスに乗って、おりる場所のひとつ前のバス停をバスが発車した瞬間、アナウンスが始まるまえに、ひょっとしたら違っていたらどうしよう、と不安になりながら、「次おります」ボタンを押すのが、好き。

よんじゅうよん。

車で、急な坂道をひゅううと下って、平らになるときにふわっとする感覚が、好き。

よんじゅうご。

雪の日に路肩の新雪に足あとをつけながら歩くのが、好き。

よんじゅうろく。

好きな歌のメロディを、ピアノで、片手の人差し指だけでつっかえつっかえ弾くのが、好き。

よんじゅうなな。

階段を、一段とばしで、ダダダッと駆け下りるのが、好き。

よんじゅうはち。

道を選んだり、いろんな選択枝のなかからひとつを決めたりするとき、無意識に、狭い、困難な方を選んでしまって、あ、しまった、ヒィーッっていいながらも、でもしょうがないかって、頑張るのが、好き。

よんじゅうきゅう。

なにかをしている人の横で、居眠りをするのが、好き。

ごじゅう。

今が、好き。