詩の部屋

〜 連詩 〜

きもちのいれもの
ちのいれもの


title : small idea


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自分

心の塊をぶつ切りにして
その時々で必要な物を取り上げ
組み合わせては
あなたの望むわたしを演じる
あなたは おいしいおいしいと言って
一切れも残さず
わたしを食べてしまう
そのたび また一から
新しい自分を演じるはめになって
心が欠けつづけて
毎晩あれこれと
残ったピースを入れ替えながら
あと何人のわたしになれるだろうか
眠れない夜を過ごす
呑気なあなたは
付き合えば付き合うほど
君が判らなくなるよ などと
待ち合わせたカフェで
午後のお茶を口に運ぶ
もう こんなことは止そう
わたしはわたしが一番大切だ
そんな気持ちを封じ込める余裕が
薄れつつある事実から目をそらして
わたしは静かに微笑みながら
たとえば? と問い返す

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境界

テーブルのうえに
水のはいったコップをふたつ置く
窓からさす光をあびて
ガラスの模様が複雑な影を落とす
裁縫用の青いひもで
コップとコップが分かたれるよう
テーブルを慎重に区切る
こっちがわたし
そっちがあなた
自分の陣地に
おはじきや花びんを置いたり
ストローで水を飲んだり
時々は線のちかくまで出かけて
もしもし
たあいない話に興じる
世界が二人だけでは何故いけないのだろう
あなただった場所
わたしだった場所が
曖昧になって
窓の陽が西にかたむいて
夜がさすころには
青い境界はすっかり意味を為さなくなっている

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貝がら

月の夜更け
申し合わせたように
二人 砂浜で落ち合って
波打ち際を丁寧にたどって歩く
海と陸との境界で
波に置き去りにされるたび
貝だった記憶を失って久しい欠片たちは
金色の夜露に身をゆだねる
辺り一面に敷き詰められた死のなかで
あなたの指を強く握りしめていると
二人を隔てている境界が希薄になって
気持ちさえもが混じり合ってしまいそうで
わざと波に濡れながら
あなたの分 わたしの分
二つだけ死骸を拾って
互いのポケットにそっと忍ばせる
そう 多分
わたしたちの命は
毎日すこしずつ欠けながら
絶えず死とつながっているのだ
どちらからともなく振り返ると
波に見捨てられた足跡が
金色の溜まりを浮かべている
ポケットのなか 指に触れた欠片は
わたしの骨と同じだけあたたかい

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新しい家

わたしたちは手をつないで
新しく越してきた家のまわりを
時計回りにぐるりと一周した
ブロックのすき間に動物の道があったり
名前のわからない草の群生に出くわしたり
自転車をふたつ並べる場所を確保したり
ベランダが布団を干すのにちょうどよい形だったり
あちこちでお気に入りを発見した
もとの庭にもどってきたので
水道で手を洗って
太陽に翳していると
ティンティン ティンと
遠くで鳥の声がした
片隅にごく小さな蓋を見つけて中を調べると
ごくごく小さなネジ巻きがあったので
注意深く巻いてみると
とつぜん庭じゅうで烈風が吹き荒れた
耐えきれずに
二人 手をつないだまま飛ばされて
空を一周してうまい具合に庭に戻ってくると
あたりはもと通り静まり返っていて
相変わらず
遠くから鳥の鳴き声が聞こえた
ごく小さな蓋をしっかりと閉めて
逃げるようにリビングに戻って
あたたかいお茶を飲んでいると
二人そろって笑いがこみ上げてきて
止まらなくなった

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お菓子の入れ物がとてもきれいだったので
丁寧にラベルを剥がして
小物入れを作った
午後になって
夕立ちが音をたてはじめたので
あなたと二人 縁側にすわって涼んでいると
ひとしきり雲が西から東へ流れて
陽が射しはじめた庭に
ほんの小さな虹がかかった
あなたは忍び足で庭に出て
何度もわたしに場所を確かめながら
虹の端っこに小物入れを置いた
空がすっかり青を取りもどしたので
小物入れをのぞき込んでみると
虹色の液体が半分ほど溜まっていて
とてもよい香りがした
注意深く部屋に持ち帰って
花瓶に入れて飾ろうか
それともシャーベットにして食べようか
二人で話し合っても
なかなか結論が出なかったので
取りあえず 交互に一口ずつ舐めてみると
程よい甘さで
心があたたかくなった
残りはまたあとで楽しむことにして
小物入れに蓋をして
音楽を聴いたり
食事をしたり
いつもより長いお風呂に入ったり
楽しい気分で夜を過ごして
さて 眠る前に
もう一口だけ飲んでみようか
どちらからともなくうなずきあって
蓋を開けてみると
虹色の液体は一滴も残っていなかった
おかしくて ひとしきり笑い転げてから
手をつないで布団にもぐり込み
小物入れをなにに使おうか
アイデアを出し合ってみたけれど
どれもしっくりこなくて
ふと 暗がりに目を向けると
小物入れがあった辺りに
ほんの小さな虹がかかっていた

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三人

夜中 とつぜん目がさめて
眠れなくなったので
あなたの横で布団にくるまって
暗闇のなか 息を殺した
どれだけ目が慣れても
いつもの家具や帽子掛けや机に逢えなくて
宙に浮かんでいるような気分で
布団を引き寄せると
端っこから淡い光が漏れた
そっとめくってみると
わたしとあなたのあいだに
糸が無数に広がっていて
ちょうど真ん中 ひときわ密集したあたりに
小さな光の球があった
窓の外を車の明かりが通りすぎるたび
大丈夫とささやいたり
何度も呼びかけるうち
球は震えたり光の色を変えるようになり
そっと指をのばすと
あたたかい光で包んでくれた
朝が近づいたので
おいで と手招きすると
光の球は恐る恐るわたしに近づいて
おへそのあたりから中に入った
今日は一日 お休みだから
少しだけ寝坊しようか
それとも三人でどこかに出かけようか
つい洩れた思い出し笑いに
あなたが素っ頓狂ないびきで応えて
とても気持ちよさそうに寝返りを打った

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