詩の部屋

〜 連詩 〜

わたし達しか知らない時間


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目次 

☆☆ おじいちゃん ☆☆

☆☆ おばあちゃん ☆☆

☆☆ おとうさん ☆☆

☆☆ おかあさん ☆☆

☆☆ おにいちゃん ☆☆

☆☆ おねえちゃん ☆☆

☆☆ おとうと ☆☆

☆☆ いもうと ☆☆

☆☆ あかちゃん ☆☆

☆☆ わたし ☆☆

「おじいちゃん」

単車のうしろ
自分で作って付けたカゴを
野菜やら
お米やらで
いっぱいにして
畑仕事の長靴のまま
さっそうと現れると
台所でおかあさんといっしょに
野菜を片づけてから
わたしやいもうとを
順番にカゴに乗せて
近所を走り回ってくれた
ネギぎょうさん食べな
大きなれへんからな
いつもと同じ調子で
単車に乗って帰っていった
おじいちゃん
帰り道
交番で説教されたらしいわ って
おかあさんが
晩ごはんのときに教えてくれた
さっそくお皿にのったネギは
苦くておいしい

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「おばあちゃん」

杵でつき上がったばかりの
おもちの固まりを
どかり 臼からはんぼに移して
わたしとおとうとが作った
もち粉の山を掴んで
ささっと振りかけながら
すずしい顔で
手のひらの大きさに千切っていく
はんぼを囲んで待ちかまえていた
おかあさんやおねえちゃんが
左の手におもちを乗せて
被せた右の手で上手に丸めるのを
わたしも真似してみたけれど
熱くて投げ出してしまった
「来年は出来るやろか」
と おばあちゃんは笑って
おもちの固まりを千切りおわると
しわだらけの手で
つやつやの真ん丸に作りかえて
わたしの手に乗せてくれる
おじいちゃんとおとうさんが
ひと休みのタバコを吸っている庭で
かまにくべた枝が
元気にはぜている

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「おとうさん」

時々
台所から
おだんごやカステラを盗んで
隠しておいて
おかあさんが
お風呂に入る時間になると
うれしそうに
牛乳といっしょに
食べはじめる
包みの袋を丸めて
ごみ箱に捨てたり
コップは出しっぱなしで
わたしが
片づけてあげていることも
知らないで
「おかぁ、鈍いやっちゃなぁ」
なんて
おとうさんひとり
いい気になっている

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「おかあさん」

おねえちゃんや わたしが
大きさが違うって
文句を言うたび
いっしょいっしょ って
いつもは
鼻であしらうくせに
今日の夜は
ちっとも元気がない
「変やなぁ、おんなじに作ったのに」
首をひねって
じっと二つのハンバーグを
見くらべて
むずかしい顔で
考え込んでしまうから
わたしもおねえちゃんも
困ってしまって
「わたしこれでええよ」
思わず言ってから
しまった
と後悔しても もう遅い
「それやったらええんや」
なんて
勝ちほこった顔で
おかあさんは
自分のハンバーグを
楽しそうに食べはじめる

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「おにいちゃん」

家のまわりの垣根
木の根元をけっ飛ばして
ぶらぁんと ぶら下がった
黒と黄色の毛虫
糸をつまんで
アパートの自転車置き場に移して
工作で余ったスプレーで
茶色に塗りつぶす
おにいちゃんが怖くなって
家まで駆けて帰って
おかあさんに告げ口した
しゃあない子やなあ って
エプロン外して
叱りに行こうとするから
慌てて止めに行くと
木の棒で
一匹ずつ かっ飛ばしては
出ました 逆転満塁ホームラーン
なんて言いながら
おにいちゃんは
ひとりで走り回っていた
ごめんね
おにいちゃん
自転車に
いっぱい毛虫がくっついているのが
気持ち悪くて
わたし 泣いていたから
仕返ししてくれただけなのに

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「おねえちゃん」

雨の日に拾ってきた
黒いちび猫を
おねえちゃんは
近くの空きアパートで飼いはじめて
猫を育てる本を買ってきたり
学校に行っている時間以外
朝も夜も付きっきりだった
おかあさんはどうしても猫が駄目で
許してくれなかったけれど
一度もおねえちゃんを叱らなかったし
動物病院の先生を連れてきて
おねえちゃんにないしょで診てもらったりした
ちょうど二週間目に
ちび猫がいなくなってからずっと
おねえちゃんは
誰とも口をきかなかったけれど
日曜日
ちび猫の寝床の片づけを手伝わせてくれながら
最後の日に
ちび猫が出ていった時のことを
泣きながら話してくれた
晩ごはんできたよぉと
おかあさんが呼びにくると
慌ててむずかしい顔になって
そっぽを向いた

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「おとうと」

週に一度
家じゅうのガラスを
泣きさけぶ声でビリビリ震わせながら
玄関にしがみつく
おとうとを
あの手この手で
自転車の補助椅子にしばり付けて
おかあさんは
涼しい顔で耳鼻科へ出かける
綿をまいた棒のさきに
苦い薬をたっぷりつけて
無理やり口を開けさせて
のどの奥をゴシゴシふくのだという
想像するだけでも恐ろしい
その病院から
今日は
笑いながら帰ってきたと思ったら
おとうとは
すっかり良くなって
もう行かなくて済むのだという
わたしは
この前のプールの後ずっと
のどがチクチクするのを
必死でかくして
「良かったなぁ」
と 明るく振るまう

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「いもうと」

いつもいっしょにお風呂に入ると
どちらが先に上がるか
ケンカになるので
先に入った方から
って おとうさんが決めた
わたしといもうとが
先を争って
入り口で転んだり
服のままお風呂場に入ったり
とうとう
いもうとが熱湯に飛び込んで
火傷しそうになったので
おかあさんが見かねて
肩までつかって
「あいうえお」を最後まで言えた方から
って 決めたけれど
わたしが勝ってばかりで
いもうとが拗ねてしまったので
「ABC」と「いろは」と
おまけに「123」まで
わたしだけ余計に言うはめになって
それ以来
一度も先に上がれない
あんたおねえちゃんやろ
なんなら九九もあるんやで
文句を言うわたしを叱るふりして
目だけで笑うなんて
おかあさん ズルい

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「あかちゃん」

お風呂のあと
天花粉を塗ってもらうのを
みんなで囲んで見ているうちに
おとうさんの手が
あかちゃんの何倍だろうという話から
それなら全員で
手形を取ってみることになって
どうせやったら
本格的にせんとなあ と
おとうさんがすった墨で
お互いの手を黒く塗りあって
おかあさんが
押し入れから見つけだした色紙に
ひとりずつ手形を取ると
あかちゃんの手は
おとうさんの半分よりも小さくて
わたしの方が
ずっと大きかった
そうそう
あんたらが生れた時の手形
どこかにしもたままやわ
押し入れを探しはじめたおかあさんが
「あ、手ふくの忘れてるわ」
と叫んだので
みんな振り返ると
あかちゃんは口の回りを真っ黒にして
へらへら
ひとりで笑っていた

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「わたし」

学校で
おとうさんの仕事の発表をして
朝から会社に行ったり夜働いたり
不規則だから
さんきん交代は大変ですって言ったら
大笑いされたって
晩ごはんの時に話すと
「それ、わたしも!」
おねえちゃんが身を乗り出して
またやったのぉ と
おかあさんをにらんだ
おかあちゃんも
おばあちゃんにそう教えられたんや
わが家のしきたりなんや
と いたずらっ子の顔で
ちっとも こりていない
今日は
いもうとだけ
おじいちゃん家にお泊まりだから
内緒にしておこうと思って
はたと気がついた
おねえちゃんだって
わたしに
そんなことは教えてくれなかった
なんだ
そういうことだったのか
親子そろって
まったく もう

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